ソーシャルリアリティ
私たち社会心理学者が扱う社会現象や人間関係のような心理学的現象には、自然科学が扱う現象とは大きく異なった特徴があります。自然現象、電気回路の実験や試験管の中の化学反応などは、私たちがどんなに目を凝らして念じてみても結果を変えたりすることはできません。超能力でもない限り無理です。けれども、人間関係のような心理学的現象は違います。
たとえば、血液型。現在、心理学の分野では、血液型による性格判断は科学的な根拠がないものとして否定されています。にもかかわらず、A型はまじめというような血液型に対するステレオタイプ(偏見)の方向に性格が変化していく傾向にあることが見出されているのです(山崎ら、1992)。すなわち、「信じるから当たる」ということです。
金融不安-うわさ-「とりつけ」騒ぎ-倒産、あるいは、石油ショック-トイレットペーパー不足、なども例として挙げることができます。また、教育心理学の講義などでよく登場するピグマリオン効果。これも、無作為に選んだ数人の小学生の知能について「将来伸びる」と教師に信じ込ませた結果、一般の子供たちに比べて、知能に顕著な伸びがみられたことから、ギリシャ神話にちなんでローゼンタールら(1968)が名づけた言葉です。これは予言の自己成就、すなわち、期待が人間をつくる例であり、企業内の人事でもそのまま適応可能な現象です。
社会心理学的視点に立って、問題を扱うには、この社会的現実性という観点が極めて重要です。すべての社会制度も私たちの心の産物であり、制度の変革が困難なのは、この社会的現実性が多くの人によって守られているからである、といえます。
具体的には、社会的現実性というのは、自身の考え、記憶、やる気、相手の気持ち、人間関係、リーダーシップ、集団のまとまり、企業の業績、日本の景気、世界の政治動向、制度、国家、法律、歴史、文化など私たちをとりまくほとんどすべてだといえます。